遠い日
病室に入っていくと兄は顔をみるなり手を差し出してきました。細くなった手をさすりながらおかゆを口に差し込んであげました。
笑顔もあり安堵したのも束の間、寒い日の朝、兄は帰らぬ人となってしまいました。
進む時も大胆、転ぶ時も大胆で大声でよく笑う男らしい兄でした。
事業を始めた時、壁に貼った売り上げのグラフを見上げ、私に「昭子、ここまできたぞ!」とのびていくグラフの先を嬉しそうに指さしたのを昨日のように思い出します。
若き日、盆綱ひきという行事があって大きい綱を弁天島まで海の中を泳ぎながら引いて行ったたくましい兄達。。。
遠い遠い日。。。。。。。。
故郷の海を見ているとよせては返す波のように遠い遠い日が繰り返しよみがえってきます。
寄せてはかえす波が人生そのもののようにも思えてきます。
通夜の日のお坊さんの一言が脳裏に残りました。「人生は長さではありません。いかに生きたか、、、、です」
兄は思い切り燃え尽きた人生だったと思いながら帰路につきました。